
平成19年の夏も終わりのころ、愛知県健康課から「糖尿病と歯周病」の講演会の要請がありました。愛知県医師会、愛知学院歯周病学教室、愛知県歯科医師会地域保健部、医療保険部、学術部の共同企画です。私の所属する学術部は、健康行動理論をベースにして話を組みました。県下5ブロックに分け、10月11日から年末にかけて歯科医師を対象に各4時間に及ぶ講演会を実施しました。
ウ蝕や歯周病からみればたいしたことはありませんが、糖尿病は、患者数740万人、予備軍880万人の巨大疾患です。因みに歯周病は30歳以上の80%が罹患し、患者数は5000万人と推定され、そのうち重症歯周病患者は、700万人といわれています。ご承知のように生活習慣病という言葉は、あっという間にメタボリックシンドロームに乗っ取られてしまいました。肥満や糖尿病、高血圧、高脂肪血症などは、内臓脂肪症候群として括られるようです。生活習慣病=メタボリックシンドローム=内臓脂肪症候群となるようで、歯周病は、これらのリスクファクター(基礎疾患)との位置づけです。お殿様だと思っていたら、将軍様が現われて、家来にされて家名の変更を余儀なくされたような気がします。
ところで、歯周病にはパラデンタルである歯科衛生士の役割が重要であることと同様、糖尿病にもパラメディカルの尽力が欠かせません。歯科もパラメディカルのようで少々不愉快ではありますが、糖尿病に歯科が取り込まれたことは、糖尿病患者には福音だと思います。大ざっぱに言って、医科では、患者に寄り添って生活に係わることに慣れていないのです。歯科では、歯科衛生士が、来る日も来る日もモチベーションの低い患者に対して一生懸命ブラッシング指導をし、スケーリングをし、口腔衛生に邁進しています。それが日常です。見方によっては、感染症を生活習慣から直そうとしているのです。竹槍で戦っているのです。歯科衛生士は、患者の心に入り込むことがその仕事と心得ています。
私が、このように断言するには理由があります。平成13年から14年にかけて、生活習慣病に対して医科ではどのように対処しているかを知りたくて、高校の同級で、当時、愛知県がんセンター疫学部長、現在、名古屋大学医学部予防医学講座教授の浜島先生に電話をしました。すると彼に「こちらが聞きたい。」と逆に尋ねられました。医科の診療は、診断し、投薬する対症療法であるのに対して、歯科には、齲蝕も歯周病も顎関節症までも何としても直そう、あるいは改善しようとする習性があります。特に歯科衛生士は、患者の生活や生き方にまで踏み込んで何とかしようと頑張ることを、予防を専門とする医者は、知っているのです。
彼は、厚労省がん研究助成金計画研究の主任研究員で、禁煙誘導方法確立しようとしています。その彼が、禁煙誘導は、医科の診療室ではなく歯科の診療室が最適だというのです。「医科の開業医に頼んでも絶対やってくれないから、歯科の診療室で禁煙ガムや禁煙パッチを処方して欲しいと愛知県歯科医師会に行ってお願いしたが、担当者に拒否された。」と恨めしそうにいうのです。平成12年より以前のことですが、当時は処方が必要だったようです。平成15年度の研究報告を見ると、歯科の分野は『歯科診療受診喫煙者に対する禁煙指導プログラムの有効性に関する研究』と題して、福岡歯科大学の埴岡 隆教授が担当しています。県歯が乗っていれば一般開業医での取り組みの成果が発表され、禁煙が医科だけではなく歯科でも保険に取り入れられたかもしれなかったのです。
以上の論拠から、私の頭の中では、生活習慣病の意味するものが、歯周病から内臓脂肪症候群に移行しても、国民の生活習慣病の動向は、歯科診療室に、もっといえば歯科衛生士に掛かっているという結論に達するのです。



〒440-0893